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1か月・1年・1週間単位の変形労働時間制とフレックスタイム制の基礎知識

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さまざまな労働時間の弾力化について

労働基準法では、1週間の法定労働時間は40時間と決められています。

 

今回ご説明する労働時間の弾力化とは、

「とある月の1週目に45時間働いた場合、残りの2週目~4週目のどこかの週で労働時間を35時間におさえるので、週ごとの法定労働時間を守ったことにしてくれませんか?」というように、労働時間を柔軟に考えて企業活動をしやすくするイメージのものです。

 

この労働時間の弾力化は主に、変形労働時間制フレックスタイム制に分けられます。

 

この2つの制度について、なるべくかみ砕いて説明していきます。

 

1.1か月単位の変形労働時間制

毎月の月末が必ず忙しくなるなど、1か月の中で業務の忙しさに波がある事業に対する変形労働時間制です。

 

この、1か月単位の変形労働時間制は、労使協定または就業規則で導入することができます。

就業規則で変形労働時間制を導入できるということは、使用者が一方的にこの制度を導入できるという意味合いを持ちます。

 

もともとは就業規則で定めれば導入できるものでしたが、やはり労使で相談して働くルールを定めた方がいいよね、という流れになりました。そのため、1か月単位の変形労働時間制のあとにできた1年単位の変形労働時間制と1週間単位の変形労働時間制は、就業規則ではなく労使協定を結ばないと導入することができない点がポイントです。

 

1か月単位の変形労働時間制は、変形期間1か月間における「法定労働時間の総枠」の範囲内で、各週に何時間労働するかを特定しておかなければなりません。

 

法定労働時間の総枠は40時間×4週ではない

この「法定労働時間の総枠」とは、1週の法定労働時間×変形期間の週数(歴日数÷7)として計算します。つまり、とある月間の歴日数が31日間であれば、31日÷7=約4.43週となるので、

 

1週の法定労働時間(40時間)×4.43週=約177時間となります。

 

この1か月単位の変形労働時間制をもとに労働時間を運用していれば、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働したとしても、時間外労働とはみなされず割増賃金の支払いは発生しないことになります。

 

2.1年単位の変形労働時間制

企業によっては、クリスマスシーズンや夏季休暇の時期など、丸々1か月を超えて忙しくなってしまう業種もあります。そうなると、1か月間の中で労働時間を40時間にならすことができないため、1か月単位ではなく1年単位のの変形労働時間制を適用することになります。

 

1年単位の変形労働時間制は、労使協定によって定めます。

この労使協定の中で、必ず次の要件を定めます。

 

  1. 対象労働者の範囲
  2. 対象となる期間(1か月を超えて1年以内の期間で設定します)
  3. 特定期間(対象期間の中でどの機関が特に忙しくなるのかあらかじめ定めます)
  4. 対象期間における労働日と、労働日ごとに何時間労働するのか詳細を定めます

 

1年単位の変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制よりも要件がやや厳しくなります。というのも、1年という長期の中で法定労働時間が変動していくため、きちんと要件を定めておかないと、労働時間が偏りすぎて労働者に負荷がかかってしまう可能性があるからです。

 

そのため、1年単位の変形労働時間制では

法定労働時間の総枠=40時間×対象期間の週数(歴日数÷7)と計算します。

 

1か月単位の変形労働時間制では1週あたりの法定労働時間×変形期間の週数と計算していましたが、1年単位と1週間単位の変形労働時間制では40時間で一律になります。

 

つまり物品販売業で10人未満の企業など、法定労働時間が44時間の業種に関しても、40時間一律で計算をするので、やや要件が厳しくなっているということです。

 

労働部と労働日ごとの労働時間の特定について

1年単位の変形労働時間制で、先々のスケジュールを特定するのが大変のため、期間を刻んで特定するのでもOKです。

 

最初の期間に関しては、労働日および労働日ごとの労働時間を特定する必要がありますが、(この月は〇日間労働をして、▲日~■日は1日当たりx時間労働します、と詳細を特定する)その翌月以降は、各期間の労働日数と総労働時間のみ定めておけばOKということになります。

 

具体的な特定は、その時期が近付いてきた30日前までに決めれば良いです。

 

労働日数と労働時間は上限がある

さらに、1年単位の変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制よりも厳しい要件になっているため、労働日および労働時間の上限が決められています。

 

労働日数…1年あたり280日(対象期間が3か月を超える場合)

労働時間…1日10時間、1週間あたり52時間

連続労働は6日まで

 

この上限を定めておかないと、極端な話ですが、

 

法定労働時間の総枠=40時間×(365日÷7)=2085時間

 1年間で2085時間以内におさまっていれば、1年の前半は月100時間で働き続けて1年の後半はまったく働かない、ということができてしまします。

 

このような事態を避けるため、1日あたりの労働時間および1週間あたりの労働時間の限度を設けて、さらに1年あたり最低でも85日は休日を与えるように最低基準が決められているのです。

 

3.1週間単位の変形労働時間制

1か月単位と1年単位の変形労働時間制は、労働時間を弾力化する代わりにあらかじめ労働日数と労働時間を特定しておく、という要件がありました。

 

しかし、飲食店などのように「今日1日でどのくらい集客できるか分からないので、先の労働時間が読みづらい…」という業種向けに作られたのが、1週間単位の変形労働時間制です。

 

適用対象…日ごとの業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、各日の労働時間を特定することが難しい事業。

具体的には、小売業・旅館・料理店・飲食店が挙げられます。

常時30人未満の労働者を使用する事業に限ります)

 

1週間単位の変形労働時間制は、労使協定を結び導入をします。

 

 

4.フレックスタイム制

 

ここまでご紹介した変形労働時間制と、フレックスタイム制は大きく異なります。

フレックスタイム制は、各日の出勤時間および退勤時間を、労働者自らが自由に選べる制度です。

 

フレックスタイム制の対象期間のことを清算期間と呼びます。清算時間の中で帳尻があえば、各日に何時間労働してもOKということです。

 

清算期間について

この清算期間は今まで1か月でしたが、昨今の改正で最長3か月に引き伸ばされました。

 

しかし、3か月の間で清算をすることは自由度が高い一方で、労働者が働きすぎて体調を崩すなどリスクも発生してしまいます。このリスクを回避すべく、フレックスタイム制には次の要件が取り入れられました。

 

1か月を超える清算期間を定める場合は労使協定での届出が必須

過重労働が発生しないよう、月の労働時間に上限を設ける

 

これをふまえて、改めてフレックスタイム制の導入要件をまとめてみます。

 

労使協定で以下の要件を定めて導入をします。

  1. フレックスタイム制の対象労働者
  2. 3か月以内の清算期間
  3. 清算期間中の総労働時間(上限を設けるということです)
  4. 標準となる1日の労働時間の長さ
  5. コアタイムの有無とその時刻
  6. フレキシブルタイムにする場合の時間帯

 

この、総労働時間に関しては、清算期間を1か月以内にするか1か月を超えるかで設定のしかたが異なるので注意しましょう。

 

清算期間が1か月以内の場合…

1週間の法定労働時間×清算期間の週数(歴日数÷7)

 

清算期間が1か月を超える場合…

1週間の40時間×清算期間の週数(歴日数÷7)

 さらに、1か月ごとの労働時間は週50時間までとされます。

 

まとめ

このように、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入したとしても、使用者は労働者の過重労働を防ぐためチェックをする必要があります。

 

フレックスタイム制のように、出退勤時間を労働者任せにしているからといって、使用者が労働者の健康管理を放棄していいという意味ではない点に注意しましょう。